26. なぜ売り専を辞めたのか
夏の夕暮れ、俺はその日もせっせと客を取る。売り専業界にも不景気の波が漂うのは現実だけど、ぶっちゃけて言うと、俺のとこはそこそこお客の入りは悪くないんです。老舗の出張サービスではないけれど、充実したHPに人気ボーイやマネージャーによるブログ、業界内では比較的易しめの値段設定が売りだからかな?正直ボーイみんながみんな滅茶苦茶イケメンという訳でも、若い訳でもないんだけれどね……店側の痒いところに手が届くサービスこそが、不況の嵐に打ち勝っているのかもしれません。
さて、唐突で申し訳ないのですが、実は俺売り専を辞めちゃいました。冒頭でそこそこ売れてる俺アピールをしておいてなんですが、ちょっとしたトラブルがありましてね……売り専同士のトラブルって、しばしば聞きますけど、まさか自分の身に降りかかるとは。しかもいざこざの結果が退店という最悪な結末の序章は、こんな一言から始まりました。
売り専同僚ボーイS(以下同僚SまたはS)「なあ、今日まだ客とってないだろう?あのさ、俺ちょっとした小遣い稼ぎの方法知ってるんだけど、ちょっとやってみないか?」
いやはや怪しいですよね。笑。でもちょっとばかし金銭的にも余裕があると、危機管理能力が低下するみたいで、やっぱり好奇心が勝ってしまうんです。まあギャンブルかネズミ講かなあ、と想像していたのですが、彼が持ち込んだのは競馬!「つぶらな瞳がどこか優しげで馬みたい」、なんて客に褒められることもしばしばある俺ですが、競馬の世界は未経験。馬並のペニスをしゃぶることはあっても、ギャンブルとしての賭け事は初めてです。俺極力そういうのに足を突っ込みたくないんですけど、初々しい思いを胸に売り専業界にも飛び込んでみたわけで。どんな初体験も、基本勇気を持って飛び込むことが大切だと、何やら勘違いしてしまい、店内ギャンブルにはまっていくのでした。
俺らの店は出張ホストなので、Sと出会うのは近所の喫茶やファーストフード店。彼に当たりそうな馬を指名してお金を渡し、ヤツが代理で馬券購入するという至ってシンプルな構図です。めんどくさがりな俺にとっては、競馬場に足を運ばずしてギャンブル感覚を楽しめ、外れた際はもっと頑張って稼がねば!当たればヒャッホウ!と高揚感で包まれて、更にのめり込む。今考えればSの思うツボですね。
でもSのヤツ、ある日マネージャーに呼ばれて店内の売り専を使ったノミ行為で厳重注意を喰らったんです。実際俺以外にも、数名のボーイに話しを持ちかけていたみたいで、Aなんか借金で火の車だとか……アイツ、たしか奨学金返済もあるのに、更にギャンブルで負債を抱え込むなんて。結局Aは奨学金云々よりもノミ行為での借金返済に奮闘し、毎日の売上を吸い取られている始末です。まあ俺だって人のことは全く言えない位競馬にハマり、そしてSの巧みな話術でお金を使い果たすことになったのは言うまでもありません。当たりは外れを繰り返して、なかなかギャンブルの依存性には勝てず、Sの懐にお金をつぎ込み続けてしまったという訳ですよ。これが最後の勝負と決めて臨んだ競馬でもあっさり負けてしまいました。貯金はとうに底を尽き、更には数社から借入したカードローンも返済できない、そんな最悪最低の状況に陥ってしまった自分。
「あの日の俺に蹴り入れたい」
そんなイライラで頭がいっぱいでしたね。俺はオッサンの臭いチンポをシャブシャブしながら日銭を稼ぎ、SのATMとして日々稼働していたなんて……うぅ。
そんなこんなで俺は自分自身の過失もあるけれど、Sに対して怒り心頭、正直もうこの店で働く意欲すら無くなってしまったのです。元はといえばSのせいなんだけど、それでも自己コントロール出来なかった自分の不甲斐なさに失望、あれだけ心意気を高らかに他のボーイとは違うんだ!と頑張って来たのに今はもぬけの殻みたい……ピンと張っていた糸がプツンと切れてしまった状態と言えばいいんですかね。あれだけプライドを持って働いていた自分も、接客に対するやる気も、セックスのテクニックだって、どこかに飛んで行きました。
自分が悪い?
Sが悪い!
いやボーイの管理ができていないクソマネージャーに店が悪いんだ!と堂々巡りをしていても、答えはもう一つしか見つかりません。今すぐにでもSを懲らしめたいそんな殺気を抱えながら実はSはただの小間使いで背後にはT・Kというオーナーがやらせていたことが発覚、
俺は店をバックレたのでした。
一般の売り専と言えども、他のボーイのシフト管理や面接もしばしば担当するくらい頑張ってきた。基本俺は性悪な部分を持っている人間なので、俺が突如として抜けることで被る店のダメージもある程度想像できましたまあ社会生活を送る人間として、そして大の大人としてバックレなんて恥ずかしいことこの上ないことなんですけどね。でもぶっちゃけそんなのどうでもいい!俺は膨らんで今にもはち切れそうな堪忍袋とカードローンの明細に悩まされながら、堂山の街から姿をくらましたのでした。
長くなりましたが、情けない売り専ボーイの最後はこんな結末で終わりを告げたのです。俺が描いていた夢に目標、そして売り専ボーイとしてのプライドに意地……全てが音を立てて崩れ去っていきました。
でもさどんなに悲しくても、どんなに怒り狂っていても、お腹は空くし性欲だって普通に沸くもんなんですね。オナニー三昧でしたもん。
「俺生きてるんだ」
こんな当たり前な感覚と出会うのは、どれ位ぶりだろう?
初めての売り専で約2年ですかね、色んな男達のペニスをフェラしたりバックに挑戦してみたり。お客をただ単にイカせればイッてもんじゃない、男の本能と売春業の本質を考えさせられたりもしました。嫌なことも、嬉しいことも沢山あった、そして最後はこんなことになってバックレたけど。。。でもね俺やっぱり前を向いて歩く決心をしたんです。
えっ?どんな決意かって?社会復帰、新たに資格習得を目指すか?それとも海外留学なんかしてみちゃう?いいえ、どれも不正解。答えは他店(勿論売り専っす!)に移籍することです。勿論バックレて辞めたので、堂山の狭い街とはオサラバですよ?狭い世界、悪い噂なんか直ぐに広がってしまうので、俺は大都会新宿を目指すことになるのです。そう、オーナーT・Kへの復讐を誓ってね……復讐の内容はあえてここで書きません、だけどたぶん決して血みどろな復讐劇なんかじゃありませんのでご安心を。あぁ、俺って大人になったなあ!
俺は腐れ在日のあいつを絶対にゆるさない。
なぜ売り専を辞めたのかは以上で、次は売り専はなぜ更に落ちるのかへ