16. 依存症の売り専
売り専という特殊なこの仕事を始めるには色々理由がある。
仕事が無い、セックスが好き、多くの人とやりたい。TVに出たことがきっかけ等。
僕は仕事が無いから始めたけど、中にはギャンブル依存症になり金も首も回らなくなって切羽詰った挙句最後の手段としてこの仕事を始める人も居る。
俺よりちょっと売り専を早く始めた同僚のT君がそのパターンだ。
俺「おはようございます」
T君「おはよう」
俺「今日もあついッスね」
たわいも無い会話から今日も始まる。T君はいつもタバコくさい人だ。
T君「猿月君ってさ、パチンコやらないんだっけ?」
俺「やらないですよ?」
T君「そっかぁやれば良いのに。面白いし金も入るし時間もつぶせるしいい事しかないよ?」
俺「でも負けちゃうこともありますよね?それは生活に支障が出るから困りますよ」
T君「負けることもあるけどトータルで見たらプラスになっているよ」
いつもこの人はトータルでというけど結局パチンコ以外のギャンブルにもハマり首が回らなくなってここにきた1人だ。
今も時間さえあればパチンコやスロットに出かけ金がなくなると出勤をするというあまり仕事を仕事として捉えていない人だ。
マネージャーにもキツク言われてギャンブルへの比重が大きすぎるから仕事に対しての意識を変えるように注意されたばかりなのに未だに更正しようとする気がない売り専という、特殊な同僚に対して申し訳ないけど典型的なダメ人間だ。
あるときT君がマネージャーに問い詰められている声が隣から聞こえてきたことがあった
マネージャー「T君。出勤をちゃんとしないのも問題だし、予約をすっぽかすようなマネなんて言語道断だよ?この仕事は他に比べたらゆるいかも知れないけれど、でもお金を貰っている以上ちゃんと仕事をこなさないといけないよ?」
T君「はい、すいませんでした。今度からちゃんと取り組みます」
マネージャー「ところでT君。君お客様にお金を無心しているよね?それも一度や二度じゃなくて。」
T君「・・・・・・・・・」
マネージャー「どうなんだい?
仕事に出勤せずにお客様にお金を無心。それもヤミケンでお客様とセックスをしてヤミケン(裏っ引き=お店を通さず直接お客様とお金のやり取りをする事)。このお店ではゴム有のセーフセックスがルールなのに君は生でしているよね?」
T君「・・・・・・・・」
マネージャー「何か反論することは?」
T君「・・・仕方なかったのです。金が無くて、すぐに金が必要で・・・」
マネージャー「どうして相談しないのかな?いつも言っているよね?」
T君「申し訳ありませんでした」
マネージャー「生でセックスしたのは最近いつ?」
T君「昨日です」
マネージャー「なら今日から3ヶ月出勤停止。3ヵ月後に性病検査を受けてもらいます。
そこで感染していないならこのまま働いてください。もしも感染しているようならこの店では働かせられません」
T君「・・・、わかりました」
そのままT君は部屋から出て行きすぐにお店を出たが、約束の3ヶ月が来ても彼はお店に来なかった。
マネージャーにそれとなくT君のことを聞いてみたら
マネージャー「T君?あぁ長期旅行するって言っていたよ?どこに行くかは聞いていないけどね」
とはぐらかす様に言われたのでこれ以上聞くことは出来ないけど、きっと何かあったのだろうな?っというのはなんとなく伝わってきて、やっぱりこの人には逆らわないほうが良いなと心から思った。
他にもよく話す男の子でB君がいる。
彼は少しメンタルが弱く普通のアルバイトや会社勤めが少し難しいらしくてこの仕事をしている。機嫌が良いときと悪いときの感情の差も激しくて少しだけ怖い。
仕事をするときは朝から夜までぶっ通しで仕事をいつもしている。
少し鬼気迫るような雰囲気もあって怖い感じもする仕事をしないときは2週間くらい全く顔を出さず仕事をしない、だから彼は予約を取ることができないと自分でも言っていた。
メンタルが落ち着いているときは普通に待機しているけど、変化が出てくるときには訳の分からない薬物を大量に飲んでいてマネージャーの問いかけにもちゃんと答えずボーっと過ごして居る時が多くなるとマネージャーから帰るように諭されお店から出て行くのがいつものパターン。
そしてしばらくすると何も無かったように顔を出すようになる。
この仕事はノンケだろうがゲイだろうが売り専という職業を持った男がお客様である男性に性的奉仕をするという究極の接客業だからお客様からネガティブをもらってそうなったのかな?って、思っていたけれど、この仕事をする前で高校生の頃から患っていると教えてくれた。
B君「仕事をしなきゃいけないしご飯も食べられないしどうしようかな?って、思っているときにこの仕事を知ったんだ。
普通のアルバイトは僕には無理だし、マネージャーも俺の事情わかっているから凄く働きやすいし感謝もしている」
俺「そうなのですね?でも、環境がいいと気持ちも落ち着きますよね?」
B君「そうだね、だからもしかしたら色々僕の体調の変化で迷惑をかけちゃうかも知れないけどその時は何もせずにそっと見守ってくれると嬉しいな」
俺「わかりました。でも、僕はどんなときでも話かけちゃいますけどね(笑」
B君「猿月君らしいね(笑。でも君みたいに心置きなく話せるのが凄く助かるよ。本当いつもありがとう。」
俺「どういたしまして」
マネージャー「今日は二人とも楽しそうに話しているね?」
マネージャーが話しながら飲み物を持ってきてくれた。
マネージャーはいつも売り専たちの会話に入ってくることが無いので非常に珍しい。
マネージャー「B君は今日15時から仕事だね?今日も無理せず笑顔でお願いしますよ」
B君「はい、解りました」
そういうと時間になりB君はお店を後にした。
マネージャー「本当は売り専の男の子同士が会話するのは、あまり僕は好ましいものと思っていないんだ」
俺「どうしてですか?」
マネージャー「ほら、他の人の話を聞いてギャラとかの優劣がわかってしまったりそれにお店の中でカップルになって仕事することに抵抗を感じるようになったりする男の子も出てくるからね」
俺「そうなんですね」
マネージャー「だから基本的には禁止って言うわけではないけれど、B君の場合は事情もあるし、人と話すだけで仕事に対して取り組んでくれるようになったらそれも非常にありがたいしね。だから彼と居るときは出来るだけ気を使ってあげてね」
俺「はい。わかりました。」
マネージャー「猿月君もそろそろですね?準備していきましょうか?」
俺「はい。行ってきます。」
売り専にはいろいろな事情を抱えた人がいるけど、みんな生きるために頑張っている。
依存症の売り専は以上で、次は店の中での話へ