25. 男に体を売ってでもデビューしたい
俺の野望。夢じゃない、それに目標でもない。俺が売り専に身を沈めるそんな理由の一つは人脈を作ること。売り専で働くヤツはたくさんいるけど、周りの奴らは殆どまともに働らかない怠惰な人間ばかりなんだ。勿論働かないじゃなくて、働けない人間もいるけどさ……基本体に顔、体に若さが勝負の売り専業界なんて、働ける時期も人間も限られてくる。古今東西いくつも売り専が生まれては無くなっていくけれど、そこに集まる人間はキッパリ2種類に分かれるんだ。
えっ、どんな人種に分かれるかって?そりゃ簡単さ、野望がある人間とそうではない、所謂時の流れに身を任せる奴らのことだよ。人生80年と言われているけれど、生まれてこの方売り専で男のナニをシャブって、チンポを突っ込まれて日銭を稼ぎたい!なんて奇特なヤツは少ないでしょう?(まあ島国日本と言えど広いし、快楽主義の売り専も居なくはないだろうけどさ。)大概のボーイはバイト感覚で仕事や学生生活と両立しながらこずかい稼ぎ。そういや20代の輝かしい数年間だけ売り専ボーイをして、30~40年後のおじいちゃんになったら時、そんな若かりし思いでに浸りたい!なんて言う哀愁漂う同僚もいたけどね。
でも売り専業界ってやっぱり面白い。性病、ヤクザにドロドロの金銭トラブル……蓋を開ければ昼ドラのヒロインも真っ青な、汚なくて危なっかしい世界だけれど、なんだろう奥が深いですよ。女性の風俗とは必ずしもイコールではない独特の世界観というのかな。色んな性癖のお客が来れば、店内では陰湿なイジメも色恋沙汰だってある。昔の絵画に出てきそうなヤリ手婆がオーナーを務めて、ボーイを嫁みたいにこき使っていたりね。小さな売り専という小部屋には色んな側面があって、いつの時代も変わらない情景がそこに見え隠れしてるわけ。
で、そんな売り専には稀に野望を持ったボーイがいる。野望と言っても人それぞれ描く未来は違うけど、基本客が持つ人脈が大きな鍵になってくることは共通点だ。貧乏な男娼とそれを買う金持ちのオッサンを繋ぐもの、そこには愛なんかないよ?当たり前だけど。お金、地位、名誉そしてコネそんな図太いチンポのようなパイプこそが、俺らの目的。毎日稼ぐ数枚の諭吉も大切だ。でもそんなあぶく銭は一瞬で泡のように消え去るヴァニタス、基本本当に欲しいものはそいつらのバックグラウンドに隠れているのね。
いやはや改めて考える事ではないのかもしれないけど面白いよ人間観察って。歯周病がキツい年金オヤジ、後ろ姿が寂しいリーマンにブサイクな童貞大学生。大概のお客は大したことない奴らばかりだけど(小金持ちを含めてね)、たまにすんごい上玉のお客も来るんだ。某チェーンホテルのオーナー、某大企業(誰もが知っている上場企業)のお偉いさんに、あぁ芸能事務所の社長もいたっけ。俺は自分の顔も体もそこまで自信なくてあくまで普通だと思っている。でもスカウトされたんだよね、「うちに所属しないか?」ってね。
いや勿論丁重に断ったけれど、嬉しかったね。俺は将来への投資目的でそんな人脈を手探りしているわけだけど、やっぱりそちらの世界を目指してる奴らにとっては大きなチャンスなんだ。元ホスト上がりのイケメンG君も、そのルックスと最高のホスピタリティーで上玉を手の平で転がして、売り専ボーイから華麗にモデルに転身しちゃったしね。
モデル、シンガー、俳優を目指す奴らの登竜門じゃあないけれど、やっぱり売り専にはそんなチャンスが転がっている。俺の仲間にも普段はコンビニバイトと売り専で生活してる劇団員がいるけれど、そいつは本当に他のボーイと違って人の喜ぶツボを抑えてる。単に床上手ってだけじゃ満足しない、つまりお客にとって手が届かないかゆい部分まで一生懸命になれる。そんな些細だけれども、気遣いを気遣いと思わせない接客体質、つまり心遣いが徹底してる。それだけ本気で売り専から這い上がって自分の夢を掴みたいんだ。
ホラ、TVで活躍している某俳優もアイドルのあの子だって元を正せばこちらの世界に足を突っ込んだクチでしょう?勿論本人達は「新宿二丁目で、堂山で男のチンポシャブってここまで出世しましたよ~。」とは言わないけどさ。その辺の暗黒部分っていうのは、ゲイ業界では今更?ってくらいに知られているけどね。結局ゲイ業界からステップアップして有名になれば、いずれ週刊誌やネット民に過去の自分を暴露されるわけだけど。
そこまでしても有名になりたい未来の卵。そんな奴らはゲイ、バイ、ノンケに関わらず少なからず売り専で一生懸命働いている。周りのボーイがだらし無いセックス好きのボーイが多いからこそ、そいつらが輝いて見えるのかな。俺はいつもそんな奴らを追いかけてる。ゴールがいつ来るかもわからない、明日か1年後……もしかしたら5年後?いやもしかしたら一生良縁に恵まれず、性病に感染して一生薬を服用しなければいけない体になるかもしれない。
そんなリスクを抱えても、俺は自分に賭けてみたい。売り専みたいな水物で博打的世界に身を置いてると、時々悲しくなって自分を見失いそうになる時もある。でも人生は1度きりでしょう?人と違う人生を突っ切って、頑張ってる自分がそこにあれば、結果はどうあれ結局いつかは報われるんじゃないかな。俺を置いてそそくさと、お客の大きなドサ袋に収まって奴ら。モデル、ホテルの支配人に舞台俳優……有名になるにはある程度の自己犠牲は必要だ。それにそれが叶うか叶わないかもわからない。例え華麗にデビューの座を掴んでも、それなりの収入を約束される仕事についたとしても、お客の手の平で買われる犬には変わりない。
売り専を卒業してもリスクは伴うし、未来は約束されたわけではない人生ゲーム。まさに売り専という舞台から生まれるボードゲームなのだ。でも俺は俺のサイコロを振り続ける、俺の野望を叶える為に。ここではあえて詳しくは言わない、なぜならそれは野望であって口外することでもない。それにクチに出したら、なんかそれが叶わなくなってしまいそうだから。
人生は短い。1度きりだ。売り専みたいな売春劇場で働く男達は皆が皆不憫なわけでも、そして儚いわけでもなんでもない。俺らみたいなちっぽけだけど、まともに駆け抜けている人間もいる。そんなことを皆にも知って欲しいな。
男に体を売ってでもデビューしたいは以上で、次はなぜ売り専を辞めたのかへ