28. そして売り専のバイトへ移籍
売り専をバックレてから早3週間…店からの執拗な電話も減ってきた…でもお金はないし、だけど性欲は貯まる一方、ナンダカンダで売り専って仕事は自分にあっていたのかも、なんて思っています。貯金も無いし、頼るべきは消費者金融か?もうローン枠もいっぱいで借りられるわけがない…、イヤだイヤだ、絶対にイヤだ、でも家族に友人になんか死んでも金の無心なんかできないよ。こんな経済的危機も手伝い、俺の中でムクムクと新たな野心が生まれて来たのは言うまでもありません。(野心だけではなく、俺の息子君も)
日本第二のゲイ街堂山で売り専ライフを送ってきた訳ですが、バックレという最悪な最後で店を退店したので、大阪にはもういられません。昔から思い立ったら直ぐに行動に移せるタイプの人間なので、色んな思いを抱えつつも新たな店に移籍という形で自分自身にケリを付けることにしたのです。いやあ、新宿なんて大都会しかも二丁目のディープゾーンでどんなコアなセックスが出来るのか?と考えるだけで、背筋だけでなく俺の菊門も疼いてしまいます。
前にも書いたけれど売り専と言っても古今東西、色んな形態の売り専が存在しています。大阪時代はいわゆる出張系の売り専で働いていたわけなので、自宅待機が出来る点は融通が利いて便利でした。ただ今回新宿で働くにあたって心に決めていたこと、それは大阪とは違った観点から働ける売り専をチョイスすること。つまり箱型の店内ファックが可能なお店かゲイバータイプのお店のどちらかで働こうと考えたわけです。俺お酒は好きなんで迷わずゲイバーがいいかなあ、なんて思っても見たけれど、結局はお酒に飲まれて自分を見失ってしまいそうな嫌な予感……大抵こんな直感というか虫の知らせ?って言うんですか、は的中する可能性が高いので、箱型の売り専で働くことにしました。
やっぱり世界的にも有名な新宿二丁目は一味も二味も違うぞ!空気が澱んでる。笑。カオスという三文字が妙にシックリくる新宿二丁目でも俺が所属することになった、某お店はいくつかの連携店舗を持つ売り専業界でも老舗の有名店。新進気鋭の勢いとはまた異なった、なんだろう今にもヤリ手婆が手招きしていそうな風格が漂うお店ですね。「アンアン」叫ぶ♂と♂のアエギ声をBGMに、ウン十年という長い歴史を手繰り寄せてみる。きっと俺の親の年代のイケメンゲイが、今俺が立っている同じ場所で♂のチンポをシャブっていたのかと考えてみる。もしくはこの狭くて哀愁漂う店内で繰り広げられた愛憎劇を妄想してみたり。そんな楽しみが無限に広がる新店舗で、俺はせっせと大阪時代の教訓を胸にアホなことはもうしないぞ!と新宿二丁目の交差点で愛を叫んでみるのです。
前置きはさておき、ゲイの間ではかなりの有名店舗が故店バレするのも怖いので、オブラートにボヤかしていますのでその辺はご愛嬌。因みに俺マネージャーとオーナーとの面接の時にも聞かれたんだけど、勤務日に関して相当悩んだんです。前の店の時は、プライベートと客とのセックスがもうゴチャまぜになってしまったので、今回はしっかり線引きをするぞ!ということで、とりあえずマイルドに週1から初めてみることにしました。店のオーナーの配慮で格安の寮(他のボーイとの共同生活ですね)に住まわせて貰えることになったので、しばらくは多忙な土曜日出勤そしてそれ以外はマッサージ店でのアルバイトで腕を磨くことにしました。しばらくの間は定収入がないと不安だし(カードローン返済もある)、マッサージの技術を身につければお客さんにも喜んで貰えるからね。
大阪時代みたいに壮大な目標はとりあえず置いて、今の自分の身の丈にあった生活を心がけて売り専をガンバロウと思いました。店内待機という始めての環境に若干戸惑いを感じたことは事実だけど、実際色んな奴らと話していると世界って広いと改めて感じる。チンポの大きさと持久力が自慢の絶倫バイに、日本語が話せない滅茶苦茶可愛い中国人。例え言葉が通じなくても、心と心で会話が出来ることがなんだか嬉しかった。
勿論嫌な感じの売り専も沢山いました。小姑みたいに自分のことを棚に上げて嫌味をグチグチいうボーイに、現役ホスト、出戻り3度目の浮浪者みたいなボーイもいたっけ。うちの店はなんというか昔の馴染みやゲイ本の広告を読んで来店するってパターンが多かったのですが、俺の初二丁目のお客さんは口臭がキツい鰻の蒲焼きの土産袋を携えたオッサン……プレイ内容は普通におちんぽをシャブって、かるーくフレンチキスにマッサージとピロートークと何ら代わりないものなんだけど。どうしても鰻の蒲焼きと口臭がきつすぎて、これはどうにもこうにも忘れられないお客1号となりました。
店の拘束時間は12時から深夜までと長いけど、やっぱりお茶ひきは頻繁に起こりましたね。新宿二丁目は堂山よりもリーマンショックとか経済の打撃を受けやすいのかなあ。と勝手に思っています。こうもお客さんがいないと、その日暮しのボーイはオーナーに借金しながら生活するしかなくなって、危うく俺もフルタイムで毎日働いてたらカードローン払えないよ!エーン。ってことになっていたので、週1勤務の選択はひとまず正解でした。
いやお客さんがいないのは生死に関わるけどさ(精子じゃない)、居心地はよかった。みんなでワイワイ、合わないボーイはもう無視だけど、マネージャー室のレンジで唐揚げを作って、オーナーにぶん殴られたりとかね。クールで今風の売り専じゃない、昭和から時が止まったまんま、そんな故郷みたいな不思議な空間の売り専。
訳あって俺は今その店にはいないんだけど、ちょこちょこと時代の流れとやらに追随してHPをリニューアルし、店内も古臭い旅館的雰囲気は皆無と人づてに聞いた。俺はちょっと悲しくなったよ、仲がよかったアイツとふざけて大笑いした日。指名がなぜか取れない俺を、「たるんでいる証拠だ!」と罵倒されぶん殴られて涙を浮かべた盛夏。セミの鳴き声が聞こえる季節になると思い出す、時空を超えた新宿二丁目あの店で過ごした売り専ライフ。
みんな今何してんのかな?俺は売り専という職業から今は少し距離を置いている。けれど二丁目で体験した刺激的な日々、金持ちの魚屋のオッサンに見初められた満月の夜、そして鰻の蒲焼きのオッサンのチンカスまみれのチンポ、そんな思い出が俺の心の柔らかい部分をたまに刺激してくる。感慨深く、涙もろくなってきたのは、売り専が恋しいから?それとも俺が年を取っただけなのかなあ……
そして売り専のバイトへ移籍は以上で、次は売り専でバイト体験へ