27. 売り専はなぜ更に落ちるのか?
俺はなんだかんだセックスが好きだ。でもね俺はゲイじゃない、そしてハッテン場にも行かない。だけどルックスがいい男を見てしまうと、やっぱり下半身が反応してしまうことがある。職業として割り切っているしノンケのつもりだけど俗に言うバイセクシャルというやつなのかもしれない。男も女も両方イケるから(最近はどちらかというと男よりかもしれないが)、セックスの対象も恋愛の対象も人の2倍あるわけだ。ふとしたきっかけで売り専業界で働きだしてから、早数年が経った。最初は男のオの字も知らないウブな青二才だったわけだけど、今じゃあ後輩の指導に面接まで任されるマネージャー業務もしばしこなすほどだ。
基本売り専で働くボーイはゲイが多いのだけれど、やっぱり店側としてはノンケのボーイも欲しいところだ。実際問題お客の立場からすると、何も知らないノンケの男の子を弄くり回して楽しむという、いやらしい連中が多いからだ。だからゲイでも店のプロフィール上は、わざとノンケの設定をすることもしばしばだ。まあ偽りのノンケなんかは、基本セックス慣れしたゲイボーイなわけだから、アヘ顔やフェラテクで嘘かどうかすぐにバレちゃうけどね……なんていうのかな、俺みたいにセックスが好きなボーイにとっては売り専ボーイとしての仕事と自分自身の立場を上手く線引きできる。だけどみんながみんな売り専という仕事に柔軟に対応できるわけじゃないんだ。
男も女も同じさ。女だけが弱い、涙を流せる生き物じゃないんだよ。男にも泣きたい夜だってある。好き好んで汚い肉棒をシャブって、オラオラ責められているわけじゃない。自分はセックスの玩具として生まれてきたの?自分の存在価値はなんなの?こんな風に考え込んで、塞ぎ込みがちになるボーイだって少なくないんだ。お金に困って飛び込んだ売り専の世界。大抵は小遣い稼ぎや貧困から逃れる為に体を売ってる男ばかりだ。売り専を夢を叶える手段もしくは、セックスを楽しむ為に働いている、そんなボーイは圧倒的に少ない。
そんなお金に困った男の子達が売り専の舞台に立っているわけだけど、やっぱり問題アリの子が多いんだ。面接をたまに任されたりするし、周りのボーイを見ているとつくづくそう思う。ギャンブル地獄、境界例、躁鬱病のボーイに、金銭感覚が麻痺したヤツら……表面上は普通の人間の皮を被っていても、影で盗みや犯罪行為に手を染めるものも多い。なんだろ、ここは売り専という世界は弱者もしくは社会不適合者の巣窟なのか?決して自分のことを褒められるような生き方はしていない、だけれどいわゆる普通に生きてきた俺でもそう思えてしまうような怖い場所でもある。
どこの職場にも見られる人間模様だけれど、社会の一員として生活を営んでいくことが難しいボーイの多いこと。何がそうさせるのか?単なるお金の問題だけ?それとも高等教育を受けていないから?正直わからない。だけど堂山や新宿二丁目のように大きなゲイタウンでは、これらのボーイが目立つ気がするのだ。一概に言えないけれど多分彼らの多くは彼らなりの目標なり夢といったゴール地点を、明確に捉えられないのだと思う。例えば俺はある夢に向かってお金を貯めつつ、人脈を広げる目的で売り専に足を突っ込んだ身だ。でも彼らの場合はその日に稼いだお金は服に靴、アクセサリーにカラオケ……自分を着飾る手段や仲間との豪遊に費やすことが多いように見える。堅実に貯金をしながら慎ましい生活をしながら将来への投資をする、そんな未来を見つめるのではなくて……ただただ今日を生きる、そして明日のお金は明日稼げばいいさ。そんなさすらいの旅日のような価値観を持っている気がしてならない。少なくとも俺の身の回りのボーイはね。
勿論ボーイが体を使って奉仕して得た給料だ。何に使っても誰にも文句は言えない。だけどヤリ部屋を寮代わりに売り専で寝泊りして、次の日もただただお客を待ってセックスする毎日。同じような毎日でも何かしら将来へ繋がる変化に富んだ社会生活とは異なり、同じような価値観のボーイが周りにいることでどんどん自分が見えなくなっていく。そんな感じなんだと思う。体を売る人間は結局いつも同じスタート地点に戻ってきてしまう。どっかの誰かさんが言ってた言葉。つまり売春業に深くハマリ込んだ者は、一旦足を洗ってもまた同じ売春を繰り返してしまうってことね。
そんな泥沼の中でお金欲しさに他のボーイにお金を借りては盗みを働き、店で禁止されてるヤミケンに手を染める。結局狭い世界だ、すぐにオーナーにバレてクビもしくは罰金。それでバックレて他の店に移籍する。もしくはゲイタウンの片隅で格安売春に従事するようになる。こんな生活をしていたんじゃ、精神的にも堕ちていくわけだ。勿論これは極端な例かもしれないけれど、実際こんな生活をして精神がおかしくなったボーイを俺は何人も知っている。
ゲイセックスにはまり込み、違法ドラッグに手を出す。ゴメオなんかいい例だったね。あんな究極のセックスをしちゃえば「コンドームつけて。」なんて流暢なこと言ってられなくなる。生セックスとドラッグの相乗効果で感じまくって、薬漬けのセックスは体以外に脳にだってダメージを与えるわけで。HIVに感染しても同じような生活を続けてしまう自堕落からは抜け出せなくなる。
売り専ボーイのみんながみんな精神的にイカレてる、そんなことを言いたいんじゃない。だけど自身の目的意識や頑固なプライド、そんな目には見えないけれど大切な価値観を持っていないと自分を見失うってしまう。そんなボーイが多いってことを、みんなに知って欲しい。売り専で働くことがいいか悪いかは社会が判断することではない。古今東西のボーイが決めることだ。だけど自分を卑下しない、自分を愛しつづける為には、売り専業界に長居をしないことつまりデッドラインを決めることが大切だ。またどんなに嫌なことをされても考え過ぎてはいけない、あとは自分が描く未来像を頭の片隅にイメージしていくこと。それがきっと大切なんだと思う。ただなんとなく浮雲のように周りに流されてしまう、そんな人には絶対手を出しちゃいけない仕事。それが売り専ボーイなんだと俺は強く実感している。
売り専はなぜ更に落ちるのかは以上で、次はそして売り専のバイトへ移籍へ